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エダヒロ・ライブラリーレスター・R・ブラウン

情報更新日:2006年10月01日

からっぽの空:世界中の鳥が絶滅の危機に

 
からっぽの空:世界中の鳥が絶滅の危機に                            ジャネット・ラーセン かつて石炭鉱山では、有毒ガスの漏出に備えて鉱夫たちがカナリアを連れて入坑した。しかしそれよりもっと前から、鳥達は、地球の環境が危ない、早く目を覚ませ、と私たちに知らせてくれていたのだ。現在、世界中の鳥類9,775種のうち、8分の1にあたる1,212種が絶滅の危機に瀕している。最も大きな原因は生息地の破壊や荒廃で、絶滅が危惧される鳥類の87%がその影響を受けている。 人口が増加の一途をたどり、そのせいで湿地や草原、森林など地球の自然環境が変化するにしたがって、鳥の数は減少してきた。生息地が農地に変えられたことが主な原因となって、世界の鳥類は、農耕以前と比べ最大25%も減少している。農地は過去300年にわたって増え続けており、地表の6%だった農地面積は地表3の1近くを占めるまでになった。 今日絶滅が危惧されている鳥類のうち4分の3は、森林を主な生息地としている。ところが毎年、ギリシャ一国分に相当する1,300万ヘクタールもの森林が破壊されつつある。失われる森林の半分近くは、鳥類をはじめ環境の変化に敏感な数多くの生物の生息地となっている、比較的人の手の入っていない原生林だ。 近年、世界の中でも特にアジアにおいて鳥の数が激減しているが、とりわけ低湿地熱帯雨林が恐ろしいスピードで消滅しつつあるボルネオ島やスマトラ島で、減少が著しい。インドネシアでは、2000年までに森林の約40%が失われてしまった。スマトラ島の低地林に生息する鳥類は、4分の3が絶滅の危機に直面している。木材の伐採で森林が消えていくのに加え、最近バイオ燃料として注目を集めているヤシ油の需要増加で、自然林をヤシ農園に転換する動きが加速している。こうした森林破壊の流れを早急に逆転させないと、低地林は10年以内に消滅してしまうだろう。インドネシアでは、同国にのみ生息する数種類のオウムやインコを含め、118種もの鳥類が絶滅の危機に瀕していて、その数は世界最多である。 これにわずかな差で続くのがブラジルで、鳥類115種が絶滅の危機に瀕している。アマゾン川流域の熱帯雨林やセラードと呼ばれる熱帯草原地帯は皆伐され、牧場や農場、あるいは最近では、飼料、食料、燃料用の大豆の大規模生産地へと転換されつつある。さらに、大西洋側の熱帯雨林は、拡大する都市化や農地化の波にのまれ90%が消失してしまった。わずかに断片的に残る森林には約950種もの鳥が生息しているが、そのうちの55種は固有種で絶滅の恐れがある。 16世紀以降、絶滅した鳥類は150種にのぼると考えられる。そのうち約50種は乱獲によるものだ。かつて地球上で最大の数を誇っていた北米のリョコウバトも、狩猟によって、人間の一生にも満たない短い期間に、種の絶滅にまで追い込まれた。食用やペット売買のための狩猟・捕獲など、人間の直接的利用のための搾取は、生息地の消失に次ぐ第2の脅威となっており、現在絶滅の恐れがある鳥類の3分の1がその影響を受けている。世界にいるオウム388種のうち、52種が乱獲によって絶滅の危機にさらされている。(データ参照:www.earthpolicy.org/Updates/2005/Update50_data.htm) 次に大きな脅威は、故意か偶然かに関わらず外来種が持ち込まれることで、世界の絶滅危惧鳥類の28%に影響を及ぼしている。人間が地球上のあらゆる場所へ行くようになるにつれ、同様に移動した有害な小動物やペット動物が、在来の野生生物を捕食し、駆逐し、生息地を変化させる。ネズミとネコが外から持ち込まれただけで、50種の鳥類が絶滅した例もある。ハワイ諸島では、持ち込まれた捕食動物と病気が生息地の消失に拍車をかけ、固有鳥類100種余りのうち半分以上が打撃を受けた。ニュージーランドでは、この200年の間に持ち込まれたフクロネズミやネズミなどの哺乳類が、8,000万年以上もの間天敵のいない環境で進化してきた多種多様な大型鳥類を壊滅状態にした。 環境汚染もリスク要因の一つで、絶滅危惧鳥類の12%がその影響を受けている。インドでは10年足らずのうちにシロエリハゲワシの個体数が激減し95%が姿を消したが、大半は薬物を与えられた家畜を食べたことによる中毒死だった。1980年から2003年にかけて、西ヨーロッパの農地でよく見られる鳥類の個体数が57%減少したのは、ほとんどが農業の集約化が原因であった。散布される農薬や化学肥料が直接中毒を引き起こすのに加え、流出した化学物質によって渡り鳥が立ち寄る湿地帯が汚染されたのだ。残留DDTやダイオキシン、ポリ塩化ビフェニルのような残留性有機汚染物質が食物連鎖中に蓄積されると、鳥に奇形、生殖障害、疾病を引き起こす可能性がある。 鳥類をはじめとする野生動物にとって、気候の変動は比較的新しい脅威である。世界中の動植物種の3分の1が、気候変動により2050年までに絶滅する可能性がある。地球の気温はここ30年で摂氏0.6度上昇しており、鳥類の中には渡りや繁殖活動、生息域に変化を来たしたものもある。例えばオランダでは、春の訪れが早くなるにつれ、シジュウカラの雛の餌である虫の発生も早くなった。しかしシジュウカラの産卵時期は変わらないため、雛の孵化する時期と餌の取れる時期とがずれてしまった。 北極・南極地域に渡ってきたりここで一生過ごす鳥類は、特に気温上昇の影響を受けやすい。極地の脆弱な生態系が温暖化によって変化すれば、北極に渡ってくる水鳥はその犠牲となる。南半球では、世界のペンギン17種のうち、すでに10種の絶滅が危惧されている。地球の温度が、予測どおり今世紀末までに摂氏1.4~5.8度上昇すれば、状況の改善は見込めそうもない。 このように徐々に迫りくる脅威のほかに、絶滅危惧鳥類の7パーセントは事故死の危機にさらされている。ここ15年間で、商業用延縄漁の増加と比例して、海鳥の個体数が激減した。毎年30万羽の海鳥が、延縄漁の擬餌につられ、仕掛けにかかって死んでいるのだ。漁業との軋轢で、今ではアホウドリ全21種が絶滅危惧または準絶滅危惧種となってしまった。さらに鳥類は産業開発の犠牲にもなっており、ラテンアメリカやカリブの国々8カ国では、絶滅危惧鳥類の半数以上がその危険にさらされている。ヨーロッパ、中央アジア、アフリカでは、猛禽類が送電線で大量に感電死している。米国では、毎年何億羽という鳥が建物の窓に衝突して死んでおり、同国の鳥類の死因第一位となっている。 もし鳥たちがいなくなると、彼らが担っている貴重な経済的役割も失われてしまう。鳥は、草花の授粉をしたり、種を運んだり、ネズミや昆虫、雑草の種などの有害生物を駆除するのに一役買っている。動物の死骸などを食べる種類の鳥たちは、栄養分を再循環させ、腐敗の進む死骸が病原となる前にきれいに片づけてくれる。 鳥類の個体数減少や絶滅を食い止められるかどうかは、残された手つかずの自然を保護できるかどうか、また自然のものであれ人の手の入ったものであれ地球の生態系を健全に維持できるかどうか次第だといっていい。絶滅寸前種については、種の存続可能なレベルにまで個体数を回復させるには、より集中的な管理が必要であろう。捕獲して人工繁殖させて野生に返す方法や、外来の捕食動物を人為的に可能な範囲で駆除するといった対策が考えられる。また鳥類の病気の拡大を防ぐには、感染した家禽類が野生の鳥と接触しないよう、バイオセキュリティー【訳注:病原菌などの侵入・拡散を防ぐための安全措置】をより厳しくする必要がある。また、建物や塔、風車などの人工建築物に鳥を近づけないようにしたり、新たに建設するものは鳥の移動経路から外すといったことでも、鳥の事故死を防げるだろう。 2005年春、長い間絶滅したと考えられていたハシジロキツツキの生存確認の報告に、鳥類愛好家をはじめ人々は大喜びした。しかし、自然界でこのような敗者復活のチャンスが巡ってくることは稀である。生息地の保護を続けたとしても、野生動物の個体数が一旦激減してしまうと、その回復はまず保証できない。そして世界中の自然保護区をいくら柵で囲んだとしても、気候を安定させ、人口増加を抑制しないかぎり、絶滅危惧種は守れないのである。
 

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