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レスター・ブラウンコーナー|エコ・エコノミー指標
【6】伸び悩む穀物の生産

レスター・R・ブラウン

2001年の世界の穀物生産高は、前年より1%多い18億5300万トンであったが、過去最高であった1997年の18億8,000万トンには及ばなかった。これだと2001年の収穫高は予想消費量を4,000万トン下回ることになると、アメリカ農務省は報告している。こうした事態は、収穫が少なく、穀物が3,600万トン不足した、2000年に引き続いてのことである。

グラフ:世界の穀物生産量および消費量の推移 1961年~2002年

このように2年続けて収穫が期待外れに終わったことで、今年の世界の穀物繰り越し在庫、つまり来年穀物の収穫が始まる時点での備蓄高は、年間消費高の24%にまで落ち込むと予想されている。これは20年間で最低の数値である。備蓄高がこのように低水準だと、今後すべての人々の目は2002年の収穫に集まることだろう。もし来年も収穫が消費を下回るようだと、穀物価格が高騰し、穀物と直接的あるいは間接的につながりのあるパンや牛肉、牛乳、卵などの商品価格にも、値上げが波及しかねないからである。

ここ2年の不作は、主に、穀物価格の値下がりや、干ばつ、拡大する水不足によるものである。穀物価格はこの20年間の最低ラインと同じところにあり、この結果、農家の人たちはお金をかけてまで収穫高を上げようとはしなくなっている。

価格の安すぎることが原因で、穀物を充分に生産する意欲が湧かないということなら、すぐにも回復の手だてはある。供給を引き締めれば、市場が反応して解決する話だからである。しかし、干ばつや地下水の枯渇、さらに、少ない水を都会に転用したことが原因で水不足が生じたとなると、ことははるかに難しい。

地下水面は今や、中国の華北平原、インドのパンジャブ地方、米国南部の大平原のような主要な穀倉地帯で低下を続けている。華北平原は中国の穀物生産高の四分の一を占めるし、パンジャブ地方といえば、生産性の高い農地に恵まれたインドの穀倉地帯である。それに、南部の大平原は米国を世界最大の小麦輸出国にしている立役者なのである。

世界経済の一体化が進む中で、水不足は、国際的な穀物取引を通してもはや国内だけの問題ではなくなりつつある。1トンの穀物を生産するのに1,000トンもの水が必要なので、水不足の国が水を輸入するには穀物を輸入するのが最も効率的なのだ。

今、世界で一番急成長している穀物輸入市場は北アフリカと中近東であるが、ここは水不足が最も深刻な地域である。モロッコから北アフリカ、中近東を通りイランに至る地域の、事実上すべての国が水不足に直面している。水の供給が限られている一方で、増加を続ける都市用水と工業用水の需要を賄うために、各国は農業用水を転用している。そして、その結果低下する穀物生産力を輸入で補っているのだ。

水不足、穀物不足に悩むイランの穀物輸入量は、ここ数年、長らく世界最大の小麦輸入国であった日本を上回るようになった。昨年はエジプトまでもが日本を追い越した。今やイランもエジプトも、国内で消費する穀物の40%以上を輸入に頼っている。どちらの国も人口は増加を続けているが、水の供給は増加していない。

穀物の輸出は結果的には水を輸出することと同じである。カナダは水の輸出に関しては政治的に神経をとがらせている国であるが、穀物の輸出というかたちをとって、世界でも有数の水の輸出国となっている。毎年、1,800万トンもの穀物、主として小麦を輸出しているが、それは180億トンもの水の輸出に相当する。同じことが米国についても言える。米国は毎年9,000万トンの穀物を輸出しているが、それは900億トンの水を輸出していることと同じであり、その量はミズーリ川の年間流量を上回っている。

食糧の十分な調達と水の適切な供給は密接に関係している。地下水と河川からの取水を合わせた水全体の、およそ70%が食糧生産に使われている。工業用水は20%、生活用水は10%である。そして世界で収穫される穀物の60%が灌漑地で生産されていることを考えると、灌漑用水の減少をもたらす要因は何であれ食糧の供給を減少させる要因となるのである。

中国で穀物収穫量が減少している要因としては、ここ2年間にわたる中国北部の深刻な干ばつ、帯水層の枯渇や都市用水への転用による灌漑用水不足の広がり、支持価格の下落などが挙げられる。干ばつにはそのうち終わりがくるだろうが、水不足はそうはいかない。穀物収穫量の70%を灌漑農地に頼っている国では、水不足が安全保障問題に急展開しつつある。

中国では1994年、食料自給率の維持を目指した大胆で効果的な取り組みの一環として、支持価格を40%引き上げた。しかし残念ながら、国庫への負担があまりに大きすぎたため、支持価格は結局下がってしまった。今では、国際市場価格近くにまで低下している。

中国は、過去2年間、備蓄を取り崩して収穫量の不足分を埋め合わせてきたが、今やこの備蓄にも余裕がなくなりつつあることを示す兆候がある。この巨大国家で、収穫量の大幅な不足がもう1年続けば、食料価格を安定させるために、相当な量の穀物を輸入せざるを得ないと思われる。

備蓄量がほぼ過去最低に近い現状で、2002年の世界全体の穀物収穫量が消費量を下回れば、価格は上昇するだろう。価格が上がれば、特に家畜飼料用の穀物などの需要量が減る。一方、生産者の耕作意欲は増す。こうして需要と供給は再びバランスを取り戻す。ただしそのときには、高い価格で落ち着くことになるだろう。

もし今年の世界の穀物需要も、これまでの10年間と同じく年1,600万トンのペースで伸び続けるなら、備蓄量をこれ以上減らさないためには、2002年の収穫量を7,000万トンも急増させる必要がある。水不足が拡大を続ける中、これが実現可能かどうかはわからない。新たに見えてきたのは、もし世界が水不足に直面するなら、同時に食糧不足にも直面する、という現実だ。

人口地図を見ると、もうひとつ厄介な現実が浮き彫りになる。それは、毎年新たに世界人口に加わる8,000万人のほとんどが、すでに水不足に悩んでいる国で生まれているということだ。世界的な水の需給バランスを取り戻せるかどうかは、今や、水不足を抱える国で人口を安定させることができるかどうかにかかっているのかもしれない。

参考データ:
世界の穀物生産量および消費量の推移 1961年~2002年

和訳:小林紀子、長澤あかね、伊藤智子、山田はるみ、小野寺春香、藤津ふみえ、酒井靖一、古谷明世、五頭美知

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