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| 【7】拡がる水不足 |
レスター・R・ブラウン 水不足は今日世界が直面している資源問題の中で、最も軽視されている問題といえるだろう。この半世紀の間に世界の水需要は3倍以上に増え、今では水不足の兆候が各地に現れている。中でも、広範囲に見られるのは、川の渇水、井戸水の枯渇、湖の消失などの現象である。
1年の間に水枯れを起す川の中に、アメリカのコロラド川や中央アジアのアムダリア川、中国の黄河がある。中国の海河や淮河にも時々同じような問題が起こるし、パキスタンの生命線であるインダス川でも、アラビア海に注ぐ頃には、川が途切れそうなほど水量の減っていることがある。 アメリカ南西部最大のコロラド川では、川の水が海にまで到達することが今では滅多になくなってしまった。長年にわたって水に対する需要が増加し、コロラド川の水が方々で取水されたため、今や渇水が常態化している。 同じようなことはアジアでも起きている。アラル海に注ぐ二本の川の中で、アムダリア川には毎年水のない時期が訪れる。アムダリア川からアラル海に注ぐ水量が激減し、その影響でアラル海は縮小し始めている。このままだと、アラル海はある日完全に消滅し、古い地図にだけ跡を留めるような事態も起きかねないだろう。 中国の二大河川の内最北部にある黄河では、1972年に初めて川底が2~3週間干上がるという事態が生じた。1985年以降はほぼ毎年、黄河の水が黄海に到達しない日がやって来る。ときには、黄河流域で海に最も近い山東省にさえ流れが届かないこともある。地下水面が低下した影響で、多くの水源が枯れ、さらにいくつかの川は完全に姿を消した。汾河は、山西省の主要水路として、かつては省都、太原を貫流し黄河に合流していたが、もはや存在していないのだ。 水不足のもうひとつの兆候は湖の消失である。中央アフリカのチャド湖は過去40年間に95%も縮小した。降雨量の減少と気温上昇、チャド湖に注ぐ川の水を灌漑に使用したことが、チャド湖消失の原因である。中国では、河北省だけでも約1,000個もの湖が消滅している。 世界有数のいくつかの農業地帯でも、地下水位が低下している。この中には、中国の穀物収穫量の3分の1近くを生産する中国華北平原や、インドの穀倉地帯であるパンジャブ州、米国の主要穀物生産地域である南部グレートプレインズが含まれる。 水不足は今や北アフリカと中東のほとんどすべての国にとって悩みの種である。アルジェリア、エジプト、イラン、およびモロッコは穀物供給量の40%以上を海外市場に頼らざるを得なくなっている。これらの水不足に悩む国々では、人口が増加しつづけているため、輸入穀物への依存度が高まっているのだ。 中東で最も人口の多い国のひとつの、7,000万の人口を抱えるイランは、広範囲にわたる水不足に直面している。マシュハドはイランで急速に成長している大都市のひとつであるが、この東側にある、肥沃な農業地帯である北東部のチェナラン平原では、水の供給量が急速に減少している。平原の地下水を汲み上げる井戸の水は、灌漑とマシュハドへ水を供給するために使用されている。最近の公式予想では、水の需要が地下帯水層への水補給量を上回ったため、地下水位は2001年に8メートル低下した。 イラン東部の一部にみられる地下水位の低下により、多くの井戸が枯れている。水を入手できなくなったために放棄された村もある。イランは水難民―水供給の枯渇によって海外への転地を余儀なくされる人々―が発生する最初の国となるかもしれない国のひとつである。 約1,900万人の人口を抱えるイエメンでは、国内全域で地下水位が年2メートル以上低下している。首都サヌア全体が位置する盆地では、汲み上げられる水が自然が補給する水量の5倍を超え、地下水位が年6メートル下がっている。最近では、井戸を2キロメートルの深さまで掘ったが、全く水が出なかった。新たな水の供給が見込めなければ、今後10年のうちにイエメンの首都では水が枯渇するだろう。 安全な水が十分確保されているかどうかを判断するためのもう一つの基準は、国民一人当たりの使用可能水量である。1995年には、使用できる清浄な水の量が、年平均1,000立方メートルに満たない人々は、18カ国の1億6,600万人であった。1,000立方メートルは、最も基本的な食糧や飲料水をまかない、最低限の衛生状態を維持するために必要とされる水の量である。2050年までに、一人当たりの使用可能水量が1,000立方メートルの最低ラインを下回る国は39カ国あまりに上ると予測され、実際には17億人が水不足に悩まされるだろう。 帯水層の枯渇と、灌漑用水の都市部への転用という二つの要因が重なり、将来のある時点で世界の灌漑面積が減少し始める可能性がある。各国政府が提出した公式資料をもとに国連食糧農業機関がまとめたデータによれば、世界の灌漑面積は依然拡大し続けている。例えば、各国のデータがそろった一番近いところでは、1998年から1999年の1年間に、灌漑面積は2億7,100万ヘクタールから2億7,400万ヘクタールに増加している。(別表データ参照) 増加が1%と報告されたことで、安心する向きもあろうが、それは楽観的すぎるようだ。政府は、新規の灌漑事業に関するデータ収集なら進んで行うが、灌漑用水が都市部へ転用されたり、帯水層が枯渇したりしたために起こる、灌漑面積の減少に関するデータを集めることにはそれほど熱心ではないからだ。これまで増加し続けていた世界の灌漑面積は、その拡大が止まり、減少にさえ転じる可能性が極めて高い。 |
参考データ: 和訳:酒井靖一、小林紀子、浜崎輝、山田はるみ、五頭美知、小宗睦美、渡辺千鶴、小野寺春香、長谷川浩代
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