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| レスター・ブラウン氏「高まる緊張――破綻国家がもたらすもの」(2010.08.17) |
「破綻国家」…… レスター・ブラウン氏のアースポリシー研究所からのリリースを実践和訳チームが訳してくれましたので、お届けします。 ~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~~~~ 高まる緊張――破綻国家がもたらすもの www.earthpolicy.org/index.php?/book_bytes/2010/pb4ch01_ss5 レスター・R・ブラウン 半世紀にわたり植民地の独立やソ連の崩壊によって新しい国家が形成されてきたが、国際社会では現在、国家の崩壊に注目が集まっている。「破綻国家」という言葉がよく使われるようになったのはわずか10年ほどのことだが、こうした国家は今や国際政治の舞台から切り離せない存在になっている。 各国政府は今まで、ナチス・ドイツや大日本帝国、ソ連のように、一国に大きな権力が集中しすぎることを懸念し続けてきた。しかし、今、世界の秩序と安定に何よりも大きな脅威を与えているのはこの破綻国家なのである。 国家が破綻するのは、中央政府が国の一部もしくは国内全域を統制できなくなり、国民一人ひとりの身の安全を守れなくなったときである。政府が権力を独占できなくなった時点で、法の支配の崩壊が始まる。また、国民に教育や医療、食糧安全保障などの基本的なサービスを提供できなくなると、政府は正当性を失う。 こうした状況になると、政府はもはや、効果的な統治をしようにも、それを支える歳入を十分に確保できなくなるかもしれない。社会が極端にばらばらになれば、相互の結び付きが失われ、全体としての決断を下せなくなるだろう。 破綻国家では、敵対勢力間の権力争いは内戦状態に発展する場合が多い。紛争は、ルワンダの大虐殺がコンゴ民主共和国に広まったときのように、隣接する国々へたちまち飛び火する可能性がある。そのコンゴでは、現在も内戦が継続し、1998年以降500万人を超える人々が命を落とした。 犠牲者の大半は、暴力とは関係ない理由で亡くなっている。何百万人もの国民が故郷を追われたため、死因の多くは、飢え、呼吸器疾患、下痢、その他の疾病が占めたのだ。また、スーダンでは、ダルフールでの殺戮があっという間にチャドに広まった。 破綻国家は、アフガニスタンやイラク、パキスタン、イエメンのように国際テロ組織の軍事訓練の候補地にもなれば、ソマリアのように海賊の基地にもなり得る。また、ミャンマー(旧ビルマ)やアフガニスタンのように麻薬の供給源になるかもしれない。アフガニスタンでは2008年、世界のアヘン供給量の92%が生産され、そのほとんどはヘロインに精製されている。 疲弊した国家は医療サービスがうまく機能しないため、国自体が伝染病の発生源になる可能性もある。例えば、ナイジェリアやパキスタンではポリオが発生し、この恐ろしい病気を根絶するための取り組みが頓挫している。 国家が破綻していることを特にはっきりと示しているのは、法と秩序の崩壊と、それに伴った、国民に対する安全保障の欠如である。ハイチでは、身代金目的の誘拐が横行している。誘拐のターゲットになるのは、労働人口の30%にあたる、幸運にも職に就くことができた一般市民なのだ。 アフガニスタンでは、首都カブール以外の地域を掌握しているのは、中央政府ではなく各地の首長である。現在、地図上でしか存在しないソマリアでは、各部族の指導者が、かつては国家だった地域の一部を自分の領地として主張し、統治している。また、メキシコでは、麻薬カルテルが横行し、米国との国境で破綻国家の兆しを見せている。 既に破綻した国家と破綻しつつある国家を分析したものの中でも、特に体系的かつ継続して行われたレポートが、毎年、米国の外交専門誌『フォーリン・ポリシー』の7/8月号に発表されている。この分析では、「国内の武力紛争と社会の疲弊に対する脆弱性」によって国家がランク付けされている。 社会、経済、政治、軍事に関する12の指数に基づき、2008年にはソマリアが破綻国家のトップになった。ジンバブエ、スーダン、チャド、コンゴ民主共和国がそのあとに続く。破綻国家上位20位までに、石油輸出国であるスーダン、イラク、ナイジェリアの3カ国が含まれている。10位のパキスタンは核兵器を有する唯一の破綻国家であり、17位の北朝鮮は現在も核開発を継続している。 【図あり】2008年破綻国家上位20位 【表[国名]列】 1 ソマリア 出典:民間団体ファンド・フォー・ピースおよび『フォーリン・ポリシー』誌による、「破綻国家指数」(『フォーリン・ポリシー』2009年7/8月号) 12の各指数は1から10までの得点によって評価され、その合計が国の一つの指数つまり、破綻国家指数となる。得点が最大値の120とは、どの基準からみても社会が完全に破綻状態にあることを示している。2004年のデータを基に最初に『フォーリン・ポリシー』がこの問題を取り上げたとき、得点が100以上の国は7カ国しかなかった。それが2008年には14となり、4年間で倍増した。 この短期間の数値だけで結論がでたと思ってはならないが、破綻国家指数が上位の国ではその得点がさらに増え、100以上の得点の国も倍増しているということは、国家の破綻が方々に広まり、同時に深刻化していることを示している。 破綻国家指数によるランク付けは主要な人口統計学や環境の指数とも密接につながっている。上位20の破綻国家のうち、17の国で人口増加が急速に進み、その中には1年間に3%近く人口が増えた国や、100年間で人口が20倍になった国がいくつかある。17カ国のうち5カ国では女性は平均6人以上の子どもを出産している。 また上位20カ国中6カ国を除くと、それらのすべての国では人口の少なくとも40%を15歳未満の子どもが占めているが、この人口統計からは将来政治不安に繋がることが多い。仕事を見つけることのできない若者たちは現状に不満を抱き易く、暴動を起こす即戦力となるからである。 ここ数十年間急速に人口を増やした国の多くでは、政府が人口疲労に苦しんでいる。一人当たりの耕作地や淡水の供給量がじわじわと減少する状況に政府は対応できず、また学校を建設しても、膨らむ児童の数に間に合わせることができないでいるのだ。 スーダンはこの人口の罠にはまった典型的な国家の一つである。この国はこれまで、経済的、社会的に充分過ぎるほどの発展を遂げ、死亡率を減少させてきた。しかし早急に出生率を下げるほど、発展したわけではなかった。その結果、女性が出産する子どもの数は平均4人となり、4,100万人の人口は一日に2,000人を超えるペースで増え続けている。このような問題を抱え、スーダンはほかの多くの国と同じように、国が崩壊し始めている。 上位20カ国の破綻国家のうち、3カ国を除くすべての国がスーダンと同じ人口の罠にはまっている。現実的に見て、おそらくこれらの国が自力でその状況から脱するのは不可能だろう。こうした国には外部からの援助が必要になる。それも単なる散発的な援助プログラムではなく、国を立て直す体系的な援助が必要である。そうでなければ、国の政治状況は今後も悪くなるばかりだろう。 この破綻国家リストに上がっている上位20カ国のうち、2、3カ国を除くほとんどで食糧生産が人口の増加に追いついていない。これらの国は、半数近くが国連世界食糧計画からの食糧支援に頼っている。 食糧不足は政府にとっては重圧になる。2007年には食糧価格の高騰や飢えの拡大に直面して、多くの国で社会秩序に緊張が見られるようになった。2008年には、メキシコでのトルティーヤ暴動からエジプトでのパンの配給を巡る争いまで、多くの国で食糧暴動と社会不安が続いた。ハイチでは食糧価格の高騰が政府の瓦解に繋がっている。 破綻国家の特徴はほかにもある。道路、電力、水道、下水処理といった社会基盤の疲弊だ。人々は生きることで精一杯であり、自然環境に配慮する余裕もない。森林、牧草地、耕作地は荒廃し、負の経済スパイラルが起きている。外国からの投資が底をつき、その結果失業者が増えたことも、この経済の悪循環症状の一つの現れである。 ハイチやアフガニスタンのような国々はまだ国として存続している。それは命をつなぎとめる国際的なシステムの恩恵を受けているからである。食糧支援を含む経済援助がそれらの国を支える働きをしている。しかし、そうした援助も、国が陥っている破綻の深刻化を打開し、その流れを、経済の進歩を維持するために必要な人口や政治の安定をもたらす流れに代えるほど充分なものではない。 グローバル化が進む時代にあって、グローバルなシステムが機能するかどうかは健全な国家間の協力体制のありようにかかっている。政府が国を統治できなくなれば、税を徴収することはもはや不可能となり、ましてや対外負債の返済などできる話ではなくなってしまう。 破綻国家が増えるということは焦げついた負債が増えることである。国際テロを抑える努力も健全な国家間の協力があればこそ実る話であり、破綻国家が増加すればそのような努力が効果の弱いものになる。 破綻国家の数が増すと、国際社会の危機への対応がますます難しくなる。世界秩序が健全で、例えば金融が安定しているとか、伝染病の急激な発生が抑制されているというような状態であれば比較的容易に起こせる行動が、多くの破綻国家を抱える世界では困難か不可能になるだろう。国際間の原材料の流れを維持することでさえ、難しくなるだろう。 いずれ、政治の不安定な状態が広まれば、世界の経済進歩に支障が出る恐れもある。このことは国家破綻を招く原因に対し、私たちが強い切迫感を持って臨む必要のあることを示唆している。 出典:レスター・R・ブラウン著、『仮邦題:プランB4.0:人類文明を救うために』(Plan B 4.0: Mobilizing to Save Civilization)第1章「人々の未来を犠牲にして」2009年、W.W.ノートン社(ニューヨーク)より刊行。
研究関連の問い合わせ: アースポリシー研究所
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