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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2009年06月21日

アースポリシー研究所「天然ガスではなく、グリーン電力で車を走らせよう」(2009.06.21)

エネルギー危機
新しいあり方へ
 

<内容>

■さまざまなエコカー〜何を基準に考え、選べばよいの?

■アースポリシー研究所「天然ガスではなく、グリーン電力で車を走らせよう」

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■さまざまなエコカー〜何を基準に考え、選べばよいの?

自動車をめぐっては、GMなどの経営破綻の話題の一方で、各国政府がエコカーへの奨励策をとったり、日本でも、各社の天然ガス車への切り替えもずいぶん進んでいたり、電気自動車のインフラ整備も進みはじめたり、いろいろな動きがあって目が離せませんね!

エコカーと一口で言っても、電気自動車、天然ガス自動車、ハイブリッド車、燃料電池自動車など、さまざまものがあります。海外では、エタノール車やバイオガス車も活躍しています。

エコカーと言われるものだったら何でもいいの? 何がどうエコなの? 長期的に考えたらどのようなエコカーが望ましいのでしょうか?

レスター・ブラウン氏のアースポリシー研究所が昨年末に出した関連レポートを実践和訳チームが訳してくれたので、お届けします。「資源そのものの利用可能量」「『油井から車輪まで』の二酸化炭素排出量」など、何を判断基準に「どの自動車がよいのか?」を考えたり選んだりすればよいかもぜひ読んでみて下さい。

たとえば、「『油井から車輪まで』の二酸化炭素排出量」を見ると、天然ガス火力発電所からの電力で走行する自動車の排出量は、直接天然ガスを燃やして走る自動車の1/4である」とのこと。

限りある天然ガスを、直接自動車で燃やすのがよいのか、それとも、天然ガス火力発電所で電力にしてから電気自動車で使うのがよいのか? 

目の前の自動車の燃費だけではなく、その燃料についても、原料の有限性や、「ゆりかごから墓場まで」の効率などにも見る目を広げていきたいですね。

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■アースポリシー研究所「天然ガスではなく、グリーン電力で車を走らせよう」

アースポリシー研究所・プランB最新レポート

天然ガスではなく、グリーン電力で車を走らせよう
ジョナサン・G・ドーン


米国では、今年(2008年)前半の原油価格急騰がガソリン価格の値上がりにつながったため、外国産の石油依存に対する懸念が、エネルギー安全保障をめぐる国をあげての議論の一つとして再燃している。「化石燃料の燃焼による炭素排出が地球の気候変動を促進している」という認識が高まっていることもあり、「石油依存」と「エネルギー安全保障」という2つの問題を解決するために米国の運輸システムをどう再構築するかということが、現在この議論の焦点になっている。

米国では最近、国内の車を天然ガスで走らせるという考えがかなり注目されているが、国家安全保障、エネルギー効率向上、気候の安定、経済などのあらゆる面を考えれば、グリーン電力で車を動かすことのほうが賢明な選択である。

車両をまとめて天然ガス(NGV)車にしたところで、他国の石油から、また別の化石燃料である天然ガスに依存の対象を置き換えるだけにしかならないだろう。米国は、世界の天然ガス確認埋蔵量のかろうじて3%を保有しているにすぎない。

しかも、NGV車が大量に生産され需要が増加したわけでもないのに、この国では既に世界の天然ガスの1/4近くを消費している。このペースで消費していけば、米国における天然ガスの確認埋蔵量では今後9年間の需要しか賄えないだろう。

米国の天然ガス生産量は、ここ20年間、比較的安定した状態を保ってきた。そして、消費が増えているにもかかわらず、この先も長期にわたって生産量増加の見込みはない。したがって、需要がいくらかでも増加すれば、それは輸入量を増やすことで賄われることになりそうだ。1980年代後半以降、米国の天然ガスの純輸入量(主にカナダから輸入)は3倍に増えた。米国エネルギー省の予測によると、2016年までに、米国は、天然ガスのほとんどを北米以外の国から輸入することになるという。

天然ガスの確認埋蔵量が多い国のうち上位を占めているのは、ロシアとイランであるため、天然ガスの輸入依存度が高まると、戦略上、米国の脆弱性が高まるだろう。ロシアとイランの両国は2001年に設立された「ガス輸出国フォーラム」に加盟しており、ほか14の加盟国とともに世界の天然ガス埋蔵量の3/4近くを共同で管理している。こうした国々が天然ガスのカルテルを結ぼうとしているという直接的な証拠はないが、2005年の同フォーラムの年次総会では、天然ガス価格を満足できる高さで維持するにはどうすればいいのかが話し合われた。

石油と同じように、天然ガスも、再生不可能で限られたエネルギー源である。つまり、全車両をNGV車に転換しても、せいぜいその場しのぎにしかならないということだ。天然ガスがさらに入手しにくくなり、価格もさらに上がっていくにつれ、すべてのNGV車とそれを支えるために必要なおよそ2万カ所の天然ガス補給ステーションは、あっさり放棄されてしまうだろう。

それよりも投資先としてもっと賢明なのは、2010年に発売予定のシボレーボルトのような、既存の電気設備を利用できるプラグインハイブリッド式の電気自動車(PHEV)を支援するものだ。米国エネルギー省所属の国立大西洋北西研究所の研究によると、仮に米国内の自動車がすべてPHEV車になったとしても、既存の電気設備で70%以上の車両への電力供給が可能になるという。

バッテリーの充電は、大抵は電力需要が少ない夜間に行われるだろう。新しいエネルギー経済、すなわち自国の風力、太陽光、地熱というエネルギー源の上に構築される経済では、化石燃料による発電に替わり、環境に配慮した送電網になることで、輸送システムも環境に優しいものになるだろう。送電網の域を越えた分散型の電力設備(例えば屋根に太陽電池を設置するなど)も、PHEV車の電力源として使用可能となるだろう。

現在のように複数のエネルギー源が混在している状態のもと、燃料の抽出から燃焼、車両の駆動に至る、エネルギー源の全ライフサイクル、いわゆる「油井から車輪まで」を基準に考えると、送電網からの電気で走るPHEV車の効率は、NGV車のほぼ3倍である。

これは、天然ガス車や、現在のガソリン自動車で使用されているような内燃エンジンが信じがたいほど非効率なことに起因している。燃料中のわずか20%程度のエネルギーしか自動車の駆動に使用されず、残りの80%は、熱として浪費されているのだ。このように、NGV車ではなく電気自動車を選択すると、エネルギー需要を大幅に低減できるのである。

この重要な事実も、テキサス出身の伝説的な石油界の大御所T・ブーン・ピケンズ氏の目には留まらなかったようである。氏は天然ガスによる発電を風力発電に置き換え、そこで使用されなくなった天然ガスをNGV車の動力源として使用するという計画を現在進めている。天然ガスは、自動車の燃料として使用するよりも、新式のコンバインドサイクル発電所で発電に使用する方が燃焼効率が3倍も高い。送配電やバッテリーの充電による電力の損失を含めても、天然ガスで発電してその電気で車を走らせる方が2倍効率的なのである。

それゆえ、PHEV車への動力源の一端を担うために、天然ガスは発電用にとっておくというのが当然の選択だ。風力発電による電力に置き換えるべきなのは、汚染が最も深刻な電力源である石炭火力発電所による電力である。

通常の走行条件下で、「油井から車輪まで」の二酸化炭素排出量を見ると、天然ガス火力発電所からの電力で走行する自動車の排出量は、直接天然ガスを燃やして走る自動車の1/4である。PHEV車を電気単独モードで運転すると排ガスが出ないため、輸送手段を電化することで、何百万台もの自動車から排出されていた炭素は、そのほとんどが集中型発電所から排出されることになり、温室効果ガス排出規制に関する課題も大いに簡素化されるだろう。化石燃料ベースの発電が、風力や太陽エネルギーへと置き換わるにしたがって、集中型発電所から累積的に排出される二酸化炭素は、大きく削減されていくだろう。

環境への影響が懸念されるのは炭素排出だけではない。過去10年間にわたり、米国の在来型の天然ガス生産量の減少は、コールベッド・メタン、タイトサンド・ガス、シェール・ガスといった、非在来型天然ガスの生産量増加によって相殺されている。1998年から2007年の間にこの非在来型天然ガスの生産量が総生産量に占める割合は、28%から47%に増加した。中でもシェール・ガスへの依存度の高まりによって、水の消費と汚染に関する懸念が生じている。

この資源からガスを抽出する工程には、シェール層に超高圧で水、砂と薬品を注入する水圧破砕が含まれる。この工程では一回の抽出あたり数百万リットルもの水を使うこともあり、薬品が周囲の帯水層に漏れ出すことが知られている。ニューヨーク市の環境保護局長は最近、ニューヨーク州の環境保全局に書面を送り、マルケルス頁岩層の天然ガス掘削が、ニューヨーク市の水源を汚染し、飲料水を危険にさらすのではないかという懸念を表明した。ガス会社がより影響を受けやすい地域に事業を拡大しようとするにつれて、非在来型天然ガス生産に対する反対の声があがるだろう。

経済的にも、電気で車を動かすほうがガソリンや天然ガスで動かすよりはるかに安い。米国の平均的な新車の燃費は1ガロン約30マイル(リッター12.75km)、その価格は天然ガスとの比較が可能な最新の数字(2008年7月時点)で3.91ドル(約350円)だ。同じ距離を天然ガスで走ると2.51ドル(約230円)かかるが、複数の既存の発電源を用いた電気なら73セント(約65円)ですむ。

電気は天然ガスに比べて、安いだけでなく急な価格変動の影響を受けにくい。電気は多くの異なるエネルギー源から作られるため、どれか一つの燃料価格が上昇しても、その他の燃料の価格が安定していることで、通常その影響は緩和される。新しい再生エネルギー経済においては、電気の価格は燃料危機とは無縁だ。風や太陽からのエネルギーは豊富で無料だからだ。

米国の家庭用電気の価格は1995年から3割しか上昇していないのに対し、天然ガスの価格は生産コスト上昇と需要増加により、3倍以上になっている。中国とインドの急速な工業化により、天然ガスをめぐる米国との競合が予想され、価格急上昇の流れが続きそうだ。

車の動力源として天然ガスを選べば、米国はまた同じ道をたどることになる。それは、米国の輸入石油中毒と最終的には枯渇する資源への依存をもたらした、高コストで非効率的な道だ。グリーン電力を選択すれば、新たな方向に、エネルギー安全保障の改善と気候安定へと向かうのだ。

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アースポリシー研究所の、2020年までに炭素排出量を80%削減する計画については、『プランB3.0:人類文明を救うために』(Plan B 3.0: Mobilizing to Save ivilization)の第11章から13章(http://www.earth-policy.orgにて無料ダウンロード可能)を参照。

「プランB3.0の時代:2020年までに炭素排出量を80%削減」

メディア関連の問い合わせ:
リア・ジャニス・カウフマン
電話:(202) 496-9290 内線 12
電子メール:rjk @earthpolicy.org

研究関連の問い合わせ:
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アースポリシー研究所
1350 Connecticut Ave. NW, Suite 403
Washington, DC 20036
ウェブサイト:www.earthpolicy.org

(翻訳  荒木由起子 長谷川浩代 小林紀子)

 

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