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テクノロジーを最も必要とする人々へ届け続ける~NPOコペルニクの取り組み

2014年12月01日
テクノロジーを最も必要とする人々へ届け続ける~NPOコペルニクの取り組み

途上国とテクノロジーをつなぐという、世界的に注目を集める活動を展開しているNGOコペルニクの共同創設者 兼 CEO中村俊裕さんにインタビューをさせてもらいました。テクノロジーをつなぐことで暮らしをよくしようという活動、ぜひご覧下さい。

【途上国向けのテクノロジーが、途上国の人々自らが起業するために活かされたら】

枝廣:コペルニクの立ち上げに至ったきっかけと、何をめざしてどんなことをされているのかを教えてください。

中村:もともとは、国連で主に途上国の支援をするという活動をしていました。国連は、政府が政府を支援するという枠組みなんですね。国連の職員として、主に東ティモールやインドネシア、シエラレオネの政府を支援するということをやっていたのですが、政府経由だけでは、普通の人々の生活が変わるのはなかなか難しいと思いました。

また、国連は、「お金を出している政府」「支援を受けている政府」「国連」という三角形でだいたいの物事が動いている、閉ざされた世界でもあって、新しく効果的なアイデアを有機的に取り入れてゆくことがなかなかできないとも感じました。

特に、途上国向けのテクノロジーがすごくいっぱい出てくるようになり、いろいろな人が「私はこういうものを作りたい」と起業するようになってきた。これを有効活用すれば、閉ざされている世界がすごくダイナミックになり、意義があると思ったのです。2009年ぐらいからそうのように思い始め、今の活動に向かいました。

【暮らしを良くするテクノロジーを集めて最も必要なものを現地パートナーに選んでもらい、それを普及させるための寄付を集める】

枝廣:コペルニクでは、人々の暮らしを変えるためにどのようにして、途上国にテクノロジーを届けているのですか?

中村:「エネルギー」「保健」「教育」「水」「衛生」の5分野で、良いテクノロジーをいつも探しています。そのリストの中から、現地で活動しているパートナーに、そこで最も必要なものを選んでもらい、そこに、さらに寄付を持ってきます。「テクノロジー」と「現地パートナー」と「寄付」の3者をつなげるのです。ウェブサイト上でもつなげることをやっていますし、実際にモノを持ってコミュニティに出かけていき、デモンストレーションすることもよくやっています。

枝廣:テクノロジーとして登録されているのはいくつぐらいあるのですか?

中村:60~70でしょうか。最初は10くらいでしたね。

枝廣:どうやって集めるのですか? テクノロジーを持っている会社からの売り込み?

中村:それもあります。いろいろ教えてもらえるときもありますし、チームで週に1回勉強会をやっているんですよ。各チームがいつも新しいモノを探して、我々が使えそうかどうかを調べて、プレゼンするやり方で、どんどん増やしていきました。

枝廣:どういう基準で選ぶのですか?

中村:まずは、途上国向けに作られているものかどうか、ですね。

枝廣:具体的には?

中村:安くて、壊れにくく、使いやすいものです。要するに、いろいろな機能がついているものではなく、説明なしでも使えちゃうものですね。それが基本的な基準です。壊れたとき、保証期間にちゃんと対応してくれるかも重要です。

枝廣:60~70のテクノロジーの原産国はどこが多いですか?

中村:いろいろですが、アメリカが多いかな。ヨーロッパやアジアの企業もあります。私たちが本拠地としているインドネシアもけっこう多い。インドの会社もアフリカの会社もあるし、グローバルですね。

枝廣:日本の企業はどうですか?

中村:日本の企業だと、最近、教育系で進研ゼミを入れたベネッセぐらいですかね。

枝廣:日本は技術の国と言われているのに、途上国向けの技術はそんなに......

中村:そうですね、日本の場合は、やはり先進国向けの技術でしたから。途上国向けになると、かなり要件が変わってきますから、まだ慣れていないのかもしれないですね。

枝廣:アメリカには、先進国向け技術も、途上国向け技術もあるのですね。

中村:ええ、そこは分かれていますね。大企業じゃなく、ほとんどがベンチャーなんですよ。アメリカには、2年間アフリカや南米などに行っていろいろな技術を指導するピースコープ(平和部隊)という政府の海外ボランティアプログラムがあるのですが、それに参加した人が、ビジネスの学位をとって起業するというパターンが多いですね。マサチューセッツ工科大学(MIT)などにも、途上国向けのモノ作りのコースがあるんですよ。今、そういうところの卒業生が次々と起業しているんです。

枝廣:日本にもそういうコースあれば良いのにね。

中村:触発されて、小規模でやるところはいろいろと出てきていますが、まだ、定期的には行われていませんね。

【信頼できる「現地パートナー」を通じて途上国の市場を開拓する】

枝廣:さきほどチームが自分たちで見つけてきて勉強会をする、とおっしゃっていましたが、どうやって見つけるのですか?

中村:ネットで調べるのが多いですね。あと、いろいろな国際会議もあります。途上国向けのテクノロジーの世界があるんですよ。スタンフォードやMITのそういう会議などには、その分野に関係する人が集まってきます。ほかにも、いわゆるインパクト・インベストメントと呼ばれる分野で投資をしている人たちから教えてもらったり、こちらからも今こういう面白い技術があるよと情報交換したりしています。

枝廣:あるベンチャーの持っているテクノロジーを使いたいという現地パートナーが現れたときに、それは無料でもらうわけではないのですよね?中村:ええ。そうですね。買います。だから、会社にとっては、我々が市場開拓をしているということですね。

枝廣:もう片方の「現地パートナー」というのは、どういう人たちでしょうか?NGOですか?

中村:NGOも多いですし、協同組合や女性グループもあります。最近は、売店とも一緒にやっています。それぞれの場所には何らかの活動をしている団体がいっぱいありますよね。目的はいろいろですが、そういう団体はだいたい、村の人からの信頼を得ていて、「彼らが言うことだったら聞いてみよう」というくらいの地位を築いているんです。だから、そういうところを通じてやると、すんなりと入っていけるんですよ。

枝廣:外から来てやるんじゃなくて、現地の人たちを通じて、ということなのですね。パートナーは、今、どれくらいいるのですか?

中村:プロジェクトの数としたら、130くらいですかね。複数のプロジェクトをやっているところもあるから、60とか70くらいですかね。

枝廣:どうやって現地パートナーになるのですか?

中村:現地パートナーから提案書があがってくるときもありますし、こちらから「こんなのをやってますよ」って言うときもあります。インドネシアを拠点にしているので、インドネシアでのいろいろなイベントなど面白い人たちの集まりで、「一緒にやりませんか?」とこちらから言うときもあります。

枝廣:ウェブからでも申し込みができるのですよね。でも、誰でも現地パートナーになれるわけではないのでしょう?

中村:ええ、でもけっこう広く受け入れています。ただ、寄付を使っていることもあって、信頼できるかどうかが一番重要です。ですから、基本的な団体の報告書や財務状況について質問し、そういったものがすぐに出てこないところはやめておく、といった基本的なチェックはしていますが、あとは一緒にやってみながら、ですね。

枝廣:最終ユーザーは無料でもらうのではないとすると、企業からテクノロジーを買う値段と、その途上国で人々が買える値段との間にギャップがありませんか?

中村:そうですね。買った値段よりも下げている場合もありますが、今は、下げずに販売するテストもしてみています。そうなるとやはり、買い手にとっては少しハードルが高いので、「どうなるのかな?」と思って見てみると、現地パートナーが分割払いのようなことをやり始めて、値段が高くても無理なく払える仕組みができていったりします。

【テクノロジーを普及させるために必要な最初の資金は、世界中からの寄付でサポート】

枝廣:なるほど。テクノロジーを持っている企業と、そのテクノロジーを途上国で広げていく現地パートナー、それから、3つめのプレーヤーが寄付者ですね。寄付者はどういうもので、どのような役割を果たしているのですか?

中村:個人・企業がほとんどですね。あと、財団が少しと、今年から政府系も少し入ってきそうです。そういう寄付者からのお金を使って、主に最初の製品の購入代と輸送費をまかなっています。実際にモノを持っていってテクノロジー・フェアをやるときには、そのコストもカバーしてもらいます。つまり、まず「知ってもらう」というところのお金を出してもらっている感じです。

枝廣:そういったサポーターは、各国にいるのですか?

中村:そうですね。個人は本当にグローバルで、アメリカと日本の2ヶ国が大きいところですが、ヨーロッパ、オーストラリア、アジアにもいます。企業もそうですね、いろいろなところが支援してくれています。

【農村部のおばちゃんの売店に販売を委託する、テクノロジー・キオスクの取り組み】

枝廣:そうして進めてこられたこれまでのプロジェクトの中から、いくつか、具体的なプロジェクトの内容を教えてもらえますか?

中村:ええ、東ティモールに最貧のオクシという県があるのですが、そこで活動しているスタッフ5人くらいのNGOとのパートナーシップでやった事例があります。このNGOとはいろいろなことをやって、最終的には、オクシ県の世帯の半分にソーラーライトを持っていきました。

その後で調査をしたところ、以前は灯油をたくさん使っていたのが、その使用量がすごく減っている。ということは、支出が減るんですよね。以前は、月7000円の支出のうち1400円くらい、つまり20%を灯油に使っていたのですが、ソーラーライトを使うようになったあとは、月100円以下になりました。それに、夜の時間の使い方も変わり、内職する時間も延びました。県の半分の世帯をカバーしたということで、これはすごくうまくいった取り組みのひとつですね。

もうひとつは、今、売店と一緒にやっている、tech kiosk(テクノロジー・キオスク)というものです。農村部に行くと、日本の田舎でもそうですが、売店がありますよね。おばちゃんがやっているたばこ屋をもっと質素にしたような売店がインドネシアにもあって、みんなそこでお菓子やコーヒーなどを買ったりしています。

この人の流れと、我々のビジネスとをうまくつなげられないかなと思って、「ソーラーライトや浄水器などを置いて売ってくれたら、商売にも良いよ」と話をしに行きました。すごくうまく行っています。今までに、50店舗以上のテック・キオスクをインドネシアに作ったのですが、人々はそこに買いにくるし、売店の収入がすごく増える。だから、彼らの生活もだいぶ楽になる。いまこれに力を入れてやっていこうとしています。普及の仕方の一つですね。

枝廣:売店は売るまではお金を回収できないですよね?

中村:ええ、だから委託でやります。最初から「買え」というとどこもやりませんから。我々ももちろんお金を循環させたいのですが、利益だけを求めてやっているわけではないので、そのあたりは我々がリスクをとって「売ったら返す」やり方で行うと、「じゃあ、やりたい」となります。

【テクノロジーの普及とビジネスモデル】

枝廣:素敵ですね。実績を出しつつ、寄付者も広がり、ビジネスモデル的には良い感じで回っているようですね?

中村:なにを良い感じというのかですが(笑)、なんとか生きながらえて活動を続けられています。幸い、組織の規模も毎年30~70%くらいの成長率で伸びているので、傾向としては悪くないと思っています。

自分たちのように、あるテクノロジーを持っていって、人がお金を払う形で普及させるということをやっていると、いろいろな企業からの、「こういうアイデアがあるのですが」「こういうものはテストできないですか?」という話が増えてきました。我々はそういう依頼に対して、コンサルティング・フィーをもらいながらやっています。そういう自己収入をもう少し増やせれば、もっと回りやすくなるかなと思っています。

枝廣:今、スタッフは何人くらいなのですか?

中村:今、50人越えたくらいですかね。

枝廣:たくさんいるのですね! スタッフの方もグローバルなのですか? 

中村:そうですね。ほとんどがインドネシア人ですね。その次がオーストラリア人かな。日本人は4人で、ほかにも、フランス人、スイス人、ドイツ人、オランダ人のスタッフもいます。

枝廣:中村さんはインドネシアを拠点に、日本に来たり、米国やあちこちに行ったりしているのですね?

中村:そうですね。日米以外だと、シンガポールが多いかな。シンガポールは今、アジアの中でもソーシャル・ビジネスのハブになろうとしている国の一つで、いろいろな会合が行われるので、よく行きます。

【全てのプロセスには改善の余地がある。活動を拡げるためにできることは、キリがない】

枝廣:今後は、どのように展開していかれるのでしょう?

中村:まだまだ小さいですから、今の活動を地道にしっかり展開していきます。本拠地であるインドネシアで、良いパートナーの数も増やしながら、同じパートナーとの関係を強固にしていきたいですね。

どの仕事でもそうでしょうけれども、我々の仕事もプロセスを分解するといっぱいあって、その全部が改善できますよね。例えば、モノを持って行くときのプロセスをどうやっていちばん効率化できるか、どうやったら現地パートナーがもっとやる気を持ってくれるか、どういうトレーニングが一番必要とされているのか、キリがないほどです。今、一個一個のプロセスを「次はこうしてみよう」と試行錯誤しながら、「つなげて持って行く」というプロセスの改善をみんなでやっているところです。

枝廣:3.11のあとは被災地の支援もされましたね。

中村:はい、短期間でしたが。我々の活動範囲でできること、強みであることをと思って、電気が通っていない地域に、ソーラーライトとソーラーで再充電できる補聴器を持って行きました。フィリピンでも台風がありましたが、そのときは水に困っている地域に浄水器を持っていきました。

枝廣:コペルニクの活動を応援したいと思ったら、何がいちばん役に立ちますか?

中村:ウェブサイトからもできますが、寄付ですね。というのも、我々は、寄付というのは1つのツールだと思っています。「今、途上国にこういう課題があるよ」と課題や問題があることを認識してもらうことと、同時に解決策もあって、そこに参画もできるよ、ということですが、この「できるよ」ということもすごく意義があると思っているんです。だから、寄付をするという行為は、お金があっちからこっちに移るだけではないんです。

枝廣:現地パートナーは「このテクノロジーを使いたい」と申請を出して、ウェブに載せてもらって、クラウドファンディングで目標額が集まってはじめて実現するわけだから、ワクワクドキドキしながら待っているのですよね。

中村:そうなんです。一度、必要なファンドが集まったちょうどそのときに、東ティモールでその団体と一緒にいたことがあるんですよ。電話がかかってきて、「目標額が達成できた」って。みんな、「おー!」ととても喜んで。

枝廣:いい場面に立ち会われたのですね! そういう喜びがあちこちに広がるよう、応援しています。ありがとうございました。

 

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