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【アースポリシー研究所より】養殖魚の生産量、牛肉を追い越す

2013年09月11日 作成
【アースポリシー研究所より】養殖魚の生産量、牛肉を追い越す

いまや私たち人間は、牛肉よりもたくさんの養殖魚を食べているということ、ご存じでしたか? 米国では抗生物質の8割は医療ではなく農業で使われている......。これらの意味するものは? アースポリシー研究所リリースを実践和訳チームが訳してくれました。

殖魚の生産量、牛肉を追い越す

ジャネット・ラーセン、J・マシュー・ローニー

http://www.earth-policy.org/plan_b_updates/2013/update114

2011年、この世界は、人類の食生活の変遷において、ある重大な段階に人知れず達していた。近代史上初めて、世界の養殖魚生産量が牛肉を上回ったのである。2012年には両者の差はさらに広がった。養殖魚(水産養殖魚とも呼ばれる)の生産量が6,600万トンという記録的な量であったのに対し、牛肉は6,300万トンにとどまったからだ。

そして2013年はおそらく、人間が天然魚よりも養殖魚をより多く消費する初めての年になるだろう。これらの動向は、単に数値が逆転したということで片付けられるものではない。食物生産における歴史的変化が新たな段階に入ったことを明示するものであり、その核心にあるのは、自然には限界があるという話だ。

【グラフ】世界の養殖魚および牛肉の生産量、1950年-2012年 【縦軸】百万トン

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   出典:国連食糧農業機関(FAO)、米国農務省(USDA)に基づきEPIが作成。

 

20世紀後半に動物性タンパク質の世界需要が5倍以上の伸びを見せたため、人類は世界中の放牧地や海洋の生産力の限界をさらに押し上げようとし始めた。1950年に1,900万トンだった牛肉生産量は、1980年代後半には5,000万トンに増えた。同じ時期に、天然魚の漁獲量は1,700万トンから9,000万トン近くまで膨らんだ。しかし、1980年代後半以降、牛肉生産量の伸びは減速し、統計として報告されている天然魚の漁獲量も基本的には横ばいである(データ参照)。

要するに、自然界からこれ以上食物を得ることはもう無理ではないか、ということである。世界の大半の草地では限度いっぱい、またはそれを超えて放牧が行われているし、世界の漁場のほとんどが限界まで漁獲されているか、すでに枯渇しつつある。過放牧が行われているかどうかは容易に判断できる。放牧地の表土を保護する植生が失われて土壌劣化へとつながり、最悪の場合は甚大な被害を伴う砂塵嵐を引き起こすこともあるからだ。

それに対して、漁場が乱獲されているかどうかの判断はそれほど容易ではない。しかし、長期間にわたって漁獲の態様を見てみると、同じ漁獲量を確保するために以前よりも多くの労力を要するようになっていることが分かる。漁船は一度の漁のために、以前より多くの燃料を使い、さらに遠洋へ、さらに深海へと出かけていく。漁師たちはより小型の魚までかき集めるため、最も人気のある食用魚の中には個体数が激減してしまったものもある。

古来、動物性タンパク質に対する人間の嗜好は、居住する場所に大きく影響を受けて形作られてきた。米国、ブラジル、アルゼンチン、オーストラリアのように広大な草原が広がる場所では、人々は草をはむ家畜に引き付けられたし、日本のような沿岸部や島々では、野生魚が主なタンパク源とされる傾向があった。

今日では、牧草地や海洋の生産力を向上させる余地がほとんど残されていないため、増大し、また、より豊かな生活を享受するようになっている世界人口のために牛肉や魚の生産量を拡大するには、牛を肥育する飼育場や、魚を育てる養殖用の池、網、魚囲いに依存するしかなくなっている。

自然の水域や草地が、きちんと管理されていれば自給自足で存続できるのに対し、魚や家畜を集約的に飼育するには何かを与えなければならない。そのため、タンパク質を生産するこの食物連鎖に穀物や大豆が投入されてきた。畜牛は約0.5キログラムの牛肉を生産するために約3.2キログラム以上の穀物を消費する。この穀物飼料量は、豚と比べて2倍、家禽類より3倍も多い。

それに比べて魚類ははるかに効率が良く、通常、体重を0.5キログラム増やすのに摂取する餌は約1キログラム未満である。豚肉と鶏肉は世界で最も広く摂取されている動物性タンパク質源であるが、養殖魚の生産量が一番急速に伸びている。過去5年間の平均年間増加率は、飼料の相対的な消費効率を反映し、世界の養殖魚生産量がおよそ年間6%、鶏肉生産量が4%、豚肉が1.7%と、ほとんど増加しなかった牛肉を急速に追い越して伸びている。

近年、穀物や大豆の価格が過去最高水準をはるかに上回るようになったため、穀物食性の家畜生産費用も増加してきた。価格の高騰により、消費者は最も効率の悪い畜肉動物から離れていった。つまり、養殖魚の消費が増え、牛肉の消費が減ったのである。

2004年以来、国民の食生活に占める肉の量が減少している米国では、一人当たりの平均消費量は牛肉で13%以上、鶏肉で5%減少した。魚の消費量も減少したが、わずか2%減に過ぎなかった。

経済的な理由のみならず、健康や環境に関する懸念もまた、先進国で多くの人が牛肉の消費を控える原因となっている。一方で、(環境汚染によって水銀が蓄積された大型魚は除き)魚は健康に良い選択肢としてもてはやされている。

赤身肉が多い食生活は心臓病や大腸がん、その他の疾病のリスクを高めるといわれている。牛肉は、カーボンフットプリント(生産過程で排出されると計算される二酸化炭素排出量)が多く、動植物の生息環境を破壊しているとして評判が悪い。ブラジルのアマゾンが顕著な例である。世界の家畜を養うために飼料用トウモロコシが栽培されているが、その畑にまかれた過剰な窒素肥料が河川に流出し、時には海岸沿いまで流れていって広大な範囲でアオコを生じさせ、低酸素のため魚類が生息できない「死の水域」を創り出してしまう。

自然体系の限界が世界的な規模で注目されるようになったのはごく最近であるが、水産養殖の歴史は何千年も前にさかのぼる。世界の養殖魚生産量の62%を占める中国では、昔から、それぞれ別のもの――植物プランクトン、動物プランクトン、草や有機堆積物――を餌とする異なる種類のコイがひとつの小規模な生態系内で同時に養殖されてきた。コイやコイ科の他の魚は今日でも中国の水産養殖の中心となっており、同国の生産量のおよそ半分を占める。

また、1/3近くはアサリやカキ等、ろ過摂食性の貝類である。コイ、ナマズ、その他の種は中国国内の水田でも養殖されており、それら魚類の排泄物が稲の肥料となっている。同様の手法はインドネシア、タイ、エジプトでも実践されている(インド、ベトナム、バングラデシュも水産養殖大国である)。

残念なことに、すべての水産養殖がこのような手法でできるわけではない。サケやエビなど、人気急上昇の養殖魚は肉食種で、天然の餌用魚から作られる魚粉や魚油を餌とする。にもかかわらず、一般的に世界の海洋漁獲高の約1/3を占める餌用魚資源(カタクチイワシ、ニシン、イワシを思い浮かべて欲しい)のほとんどが危機的な水準にまで乱獲されているのである。

養殖業者は餌に使う魚粉や魚油の量を減らそうと努力してはいるものの、史上最高のペースで拡大する世界の需要を満たそうと急ぐあまり、餌を与えて育てる養殖魚の割合が増えてしまった。餌を与えた方が成長が早く、その分だけ早く市場に出せるからだ。世界最大の養殖サケ生産国であるノルウェーは、今や、他のどの国よりも多く魚油を輸入している。世界有数のエビ生産国である中国は、魚粉の年間取引量の約3割を輸入している。

生物学的に豊かな熱帯雨林が肉牛用の牧場に変えられてきたように、稚魚の成長に重要な生息地となり、嵐の際には沿岸部を防護するマングローブ林が養魚場に変えられてきた。世界的に見て、消失したマングローブの半分以上が水産養殖、主にエビ養殖に起因するものだと考えられている。フィリピンでは、国全体のマングローブの約2/3――10万ヘクタール以上――がエビ養殖によってここ40年の間に姿を消してしまった。

魚の養殖でも畜産でも対象は何であれ、囲われた空間で動物を集約的に飼養することで他にも問題が生じる。その問題とは「環境から何を搾り取るか」ではなく「環境に何を投入してしまうか」ということである。小規模の畜産場であれば、動物の排泄物は、作物の肥料として利用できる。しかし、多数の動物が一カ所に集まると、その排泄物は資産から負債へと変わる。

排泄物が大量であることに加え、密集環境で広がりやすい厄介な病気や病原体に対処するために使用される抗生物質や、寄生虫を駆除する化学物質もまた、周辺の生態系に流出する。家畜に抗生物質を過剰投与すると、抗生物質耐性バクテリアが生まれる可能性があり、人類と動物の両方に脅威となる。例えば米国では、抗生物質の80%は農業に使用されており、しかも、病気の動物の治療目的ではなく、急激な重量増加を促進するために使用されているのである。

このように、自然システムの限界との衝突の解決策として長らく食物を生産してきた手法自体が、数多くの問題を引き起こしてきた。世界の一人当たりの牛肉消費量は年間平均およそ9キログラム未満であるが、これが1970年代の約11キログラムまで戻ることは考えにくい。

しかし、魚の年間消費量は1970年代の約11キログラムから現在は約19キログラムにまで増加しており、これからも増加が続く見通しである。足りない分が天然魚ではなく養殖魚でまかなわれている今、水産養殖業を持続可能なものにする緊急性は明らかである。

養殖魚の餌に関しては、魚肉生産業者が海産物の廃棄部分で餌に利用できるものを増やしており、現在では、魚肉のおよそ1/3が食用魚の切り落としやその他の副産物でできている。また、魚肉や魚油の代わりに家畜や家禽類の加工廃棄物や植物由来の餌を使用している養殖魚業者もいる。あまり食欲をそそる話ではないかもしれないが、天然資源への負担は確実に軽減される。持続性の視点から見ると、食用穀物、油糧種子、他の動物由来タンパク質を使った餌を与えていない養殖魚が多く消費される状態を取り戻す方が良いだろう。

世界人口70億人、毎年およそ8,000万人が増えていく中で、自然の限界を避けて通ることはできない。地球の自然の制約の中で生きていくには、食肉と魚の生産方法を見直して生態系に配慮することが求められる。そして、そのための最大の鍵は、人口増加を緩和することによって需要を抑え、すでに食物連鎖の頂点にいる我々が肉、ミルク、卵、魚の消費を減らすことなのである。

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データやその他の情報についてはwww.earth-policy.orgを参照のこと。

この情報はご自由に友人、家族、同僚の方々に転送してください。

メディア関連の問い合わせ:
リア・ジャニス・カウフマン
電話:(202) 496-9290 内 線12
電子メール:rjk@earthpolicy.org

研究関連の問い合わせ:
J・マシュー・ローニー
電話:(202) 496-9290 内線17
電子メール:jmroney@earthpolicy.org

アースポリシー研究所
1350 Connecticut Avenue NW, Suite 403
Washington, DC 20036

(翻訳:正嵜春菜、チェッカー:小宗睦美)

 

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