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エダヒロの本棚

不都合な真実 2
翻訳書
 

アル・ゴア (著)

枝廣淳子  (訳)

実業之日本社

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 (訳者あとがきより)

タコ! タコが住宅地にいる! 

原書をめくっていた私の目は、マイアミの住宅地でタコが伸びている写真に釘付けになった。「大変な時代になってしまった」とつぶやくと、タコが「本当にそうだよ」とつぶやいた......。

タコにとってもいい迷惑である。そして、気候が変わってきたことで、住む場所を失った多くの生物たちにとっても。大気中の二酸化炭素が大量に溶け込むことで、海水が酸性化し、殻やサンゴがつくれなくなった海中の生物たちにとっても。

2007年、アル・ゴア氏は、世界中に温暖化の危機を知らしめ、行動を促すきっかけの1つとなった『不都合な真実』の映画と書籍、そして、世界各地で温暖化の危機と解決策を伝えるネットワークを率いた功績をたたえられ、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)とともに、ノーベル平和賞を受賞した。私はその書籍の翻訳を担当したが、多くの人々や企業・組織がこの問題に関心を向け、多くの講演会やセミナー、プロジェクトにつながっていくようすを目の当たりにした。

しかし、「それでハッピーエンド!」にはならなかったのは、ご存じのとおりである。

温暖化の問題は、「長い時間的遅れ」という特徴を持つ。たとえば、エネルギーシステムを「変えよう!」と思ってから、実際にエネルギーシステムが変わるまでには、プロジェクト立案、既得権益団体との戦い、融資の提案と説得、地域住民の合意形成、建設と、数年、場合によっては数十年かかる。エネルギーシステムが化石燃料から再生可能エネルギーに換わり、大気中に排出される二酸化炭素が減り始めても、これまでに大気中に排出された二酸化炭素の寿命は数十年から数百年に及ぶ。たとえ、今日世界中の二酸化炭素排出をゼロにしたとしても、数十年は温暖化が進行してしまうのだ。まさに「温暖化は、急には止まらない」のである。

したがって、気候変動問題は、時間との戦いでもある。無限に時間があれば、少しずつ教育や意識啓発を通して人々の価値観を変え、行動を変えていくこともできるだろう。しかし、それでは、救えないものが多々出てしまう(本書には、すでに救えなかったものの例がいくつも載っている)。

時間との戦いであるのに、2007年に『不都合な真実』が出されてからのこの10年間、私たちはどこまで進んできたのだろう? もちろん、希望の持てる展開はたくさんある。本書にもあるように、「想定外」のスピードでの変化も起こっている。しかし、全体的にいえば、残念ながら、「じりじりと退却中」ではないだろうか。

特に日本では、2011年には東日本大震災・原発事故に見舞われた。節電意識は高まったものの、「温暖化どころではない」メンタリティが広がり、いまだに、環境意識も温暖化への関心も下落中なのだ。

10年前に比べて、確かなことが1つある。それは、残された時間は10年分減っている、ということだ。ゴア氏が本書で活動初心者にもわかりやすく、行動への手引きを明示しているように、「思いと意識」だけでは変わらないことを認め、いかに「行動」につなげていけるか、そして、二酸化炭素排出に価格をつけるなどのしくみを用いて、まだその重要性に気づいていない人々の「行動」まで変えていけるか――10年後には、「やっと動いたね、何とかなりそうだね。がんばったよね」と語り合えることを心から祈っている。 

本書の翻訳に際しては、五頭美知さん、佐藤千鶴子さん、小塚淳子さんにお手伝いいただいたほか、国立環境研究所の江守正多さんに専門用語の確認をしていただいた。編集者の大森春樹氏とともに本書を世に送り出すことができて、大変うれしく思う。 

枝廣淳子

 

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