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エダヒロの本棚

地球に残された時間 80億人を希望に導く最終処方箋
レスター・R・ブラウン 著
翻訳書
 

レスター・R・ブラウン (著)
枝廣 淳子(翻訳)、中小路 佳代子(翻訳)

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 地球温暖化にせよ、食料の状況にせよ、何となく状況が悪化しているような気がするが、実際のところはどうなのだろうか? 私たちはどうして、このような問題が頻発する状況に陥っているのだろうか? 企業は新しい社会の要請に、どのように応えつつあるのだろうか? そして、私たち一人ひとりは何をすべきなのだろうか?--このような思いをお持ちのすべての方へ。
 世界屈指の環境オピニオンリーダーとして40年近く環境問題の分析と発信を続けているレスター・R・ブラウン氏の最新刊は、このような疑問や不安に、データと事実、明晰な分析、新しい動向や事例を、客観的にかつわかりやすく示してくれます。持続可能な未来に向けて本書と一緒に考えてみませんか。

訳者あとがき
 
「気候にせよ、身の周りの自然にせよ、何かおかしい」
「このままでは、未来世代に住みにくい地球を残してしまうのではないか……」

地球や私たちの暮らしの今後に対する、漠とした不安が広がっています。地球温暖化にせよ、食料の状況にせよ、何となく状況が悪化しているような気がするが、実際のところはどうなのだろうか? 私たちはどうして、このような問題が頻発する状況に陥っているのだろうか?
核戦争や世界を二分するような武力衝突の危険性は遠のいたように思えるが、二一世紀の新たな危機とは何なのだろうか? 政治や経済は、新たな課題に対応できているのだろうか? 企業は新しい社会の要請に、どのように応えつつあるのだろうか? そして、私たち一人ひとりは何をすべきなのだろうか?
このような疑問や不安を感じていらっしゃる方々に、レスター・R・ブラウン氏の最新刊『World on the Edge』の日本語版をお届けできることを心からうれしく思います。本書は、このような問いや不安に、データと事実、明晰な分析、新しい動向や事例を、客観的にかつわかりやすく示してくれる本だからです。
世界屈指の環境オピニオンリーダーとして、四〇年近く環境問題の分析と発信を続けているレスター・R・ブラウンは、一九三四年にニュージャージー州の農家に生まれました。小さいときから畑仕事を手伝い、一三歳ぐらいのときには近所の人からオンボロのトラクターを安く買って自分で修理し、弟とトマト栽培に精を出し、近所でもまれにみる生産量を誇っていたそうです。「ニュージャージー州のトマト・ピッキング選手権でも優勝したことがあるんだよ」とのこと。
そのまま一生トマト栽培を続けていくつもりだった彼の人生を変えたのは、農業を学んでいた大学時代に、インドの地方農村で過ごした半年間の経験でした。人口増加などで痩せた土地では十分な作物ができず、飢えた村人たちは何とか生き延びようと森の木を切って畑をつくるが、それがまた土地の劣化につながる、という悪循環を目の当たりにしたレスターは、「農業問題は土地や水などの環境問題だ」と痛感したと言います。
米国に戻ったレスターは、農家にはならず、農務省に入ります。トマトではなく政策をつくる立場から農業に取り組んだのです。農務省でも注意深くインドの様子を追っていたレスターは、一九六五年、現地から米国政府に向けて「インドに大飢饉発生の可能性あり。大至急穀物送れ」と緊急電報を打ちます。土地の劣化やその年の異常なモンスーン気候から農業用水の不足を予見し、収穫量への影響を見抜いたうえでのギリギリの判断でした。その年インドは、レスターの予想どおり穀物が取れず大飢饉の危機に瀕しますが、レスターの打電に対応して米国の穀物生産総量の五分の一もの穀物がすでに海を渡っていました。おかげで大不作にもかかわらず、インドは大飢饉をまぬがれることができたのです。
このエピソードからもわかるように、レスターは、個別の事象を大きな枠組みで関連づけてとらえる力が優れています。まだ誰も気づいていない二〇年以上前から、「バイオエタノールを推進すれば、食料問題につながり、穀物をめぐって人間と自動車が争うことになる」と警鐘を発していたのもレスターです。
かつて、「レスターはどうして、大局的見地から物事をとらえられるようになったの?」と聞いたことがあります。彼の答えは、「実際に農業に携わった経験が大きかったのだと思うよ。農家は、土壌から天候、市場、植物の病気、経済まで、異なる分野にまたがって考えなくてはならないからね。長年、農業をしてきた私にとって、こうした大きな枠組みで考えることは、第二の天性みたいなものなんだよ」。
個別の問題や事象に振り回されるのではなく、このような「大きな枠組み」で私たちの直面している地球規模の問題構造をぜひとらえていただくために、本書ほどわかりやすく優れた手引書はないと思います。
レスターは危険や危機をあおり立てるようなことは決してしません。講演でも書籍でも、熱い思いは伝わってきますが、淡々とデータと事実を分析と見通しを示していきます。「あなたは楽観主義者ですか? 悲観主義者ですか?」と尋ねられると、レスターは「現実主義者です」と答えます。でもきっと、明るい現実主義者なのだと思うのです。
二〇一一年一月に私が立ち上げた「幸せ経済社会研究所」のインタビューで、レスターに幸せについていろいろと話を聞いたのですが、最後に「長年悪化の一途をたどっている地球環境問題に取り組みつつも、レスターはいつも幸せそうに見えるけど、何がレスターを幸せにするの?」と聞いてみました。
レスターは笑って、「文明を救うために自分たちがすべきことが実践されているかどうかを示す進捗報告に耳を傾けることだね」と、英国で野心的な二酸化炭素排出量削減目標が出されたこと、コスタリカやモルジブなどのより小さな国々が二〇二〇年頃までに二酸化炭素排出量ゼロにする計画であること、スコットランドは二〇二〇年までに電力のすべてを二酸化炭素排出量ゼロにする予定であること、人口を安定させた国が四六カ国あることなどを挙げ、「こうした、持続可能な文明に向かって前進しているという証拠に、最もワクワクし、喜びを感じるんだよ」。
レスターは本書を通して、かつてインドを大飢饉から救ったのと同様の緊急電報を、世界のすべての人々に宛てて打電しているように思えてなりません。「このまままでは大変な状況になってしまう、しかも残された時間はあまり多くない崖っぷちに私たちは立っている、でも、どうしたら危険な崖から離れることができるか、真に持続可能な社会と未来を創ることができるか、私たちはやり方も知っているし、そのための技術ももう手の中にある。だからみんなで力をあわせてがんばれば、まだ大丈夫。何もせずに状況の悪化を見守るのではなく、立ち上がり、それぞれができること・すべきことをやっていこう」││そんなレスターの思いを共有し、各地での取り組みがさらに加速することを祈っています。
本書の翻訳にあたって、すばらしい翻訳者の中小路佳代子さんがいっしょに作業をしてくれました。川嶋洋子さん、佐藤千鶴子さんがお手伝いしてくれ、ダイヤモンド社編集者の村田康明さんが企画・編集を担当してくださいました。ありがとうございました。
そして、一九九八年にレスター・R・ブラウン著『エコ経済革命』(たちばな出版、一九九八年)を翻訳した際、訳者あとがきの最後に「環境問題と格闘するレスターを少しでもサポートできればと思っている。そしていずれは、私もリングに上がりたい、と思っている」と書いた私が、翻訳だけではなく、講演や執筆、政府の委員会などでも活動するようになっていくのを、会うたびに目を細めて応援してくれているレスターに心からの感謝を込めて。
枝廣淳子

 

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