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エダヒロの本棚

エコ経済革命
翻訳書
 

レスター・R・ブラウン (著)、枝廣 淳子 (訳)
たちばな出版

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現在のまま世界経済が膨張を続ければ、経済を支える自然のサポートシステムが破壊すること知りながら、私たちは未だ環境を破壊しない持続可能な経済に変えることができずにいます。しかし「よい知らせは、環境を破壊しない持続可能な経済がどのようなものかはすでにわかっている、ということだ」とレスターは言います。新しい経済-地球環境の原則を尊重する経済-の構築は、史上最大の投資機会を意味することを示してます。このチャンスを理解する企業が10年後に勝者となっていることでしょう。

訳者あとがき
                            枝廣淳子

 「僕はプロボクサーだったことがあるんだよ、本当に。一五歳ぐらいで最初の試合に出てね。相手は自分よりずっと大きな青年だった。こっちは緊張してガチガチだったしね。でも結構いけたんだ。それから二試合、全部で三試合やったところで、世界チャンピオンになれそうにないことがわかって、やめたけどね」
 「それからやったスポーツ? 学生時代はレスリング部だ。その後は、つい最近までフットボールをやっていた。いまは時間がなくて観るだけになってしまったけど。昔から格闘技が好きなんだよ、実は」。
 「それで今は、世界の環境問題と『格闘』しているわけですね?」という私の言葉に、レスターは微笑んだ。確かに細身ながらがっちりした体格だし。でも、蝶ネクタイとスニーカーがトレードマークの温厚で知られるレスターが、ボクシングやらレスリングや組み合っているところを想像するとちょっとおかしい。
 レスターは、すばらしい講演者だ。OHPも使わずに、話術だけで聴衆をぐいぐい引っ張っていき、時間きっちりにきれいに終わる。理路整然とポイントを明らかに、データを付け加えながら語っていくので、非常にわかりやすい。自分にわからないことは「わからない」と正直にいって、決してごまかしたり知ったかぶりをしない。
 しかし、なかなか通訳泣かせの講演者でもある。
・まず原稿は一切出してくれない(全部彼の頭の中に入っているのだ)。
・自分用のメモも見せてくれない(むりやり頼んで見せてもらったことがある が、結局読めなかった)。
・講演は、話し言葉というよりは書き言葉のようだ。無駄な言葉や回り道がなく、理論的で整然としており、テンポよく語っていく(私みたいな通訳者が同時通訳するときには、普通は講演者の回り道や無駄な言葉で追いついたりするので、これがないとキツイ)。
・数字が(それもケタの大きな数字が)たくさん出てくる(一度、前日の講演と微妙に違う数字を出したので、「どうして昨日と違う数字なの?」とあとで聞いたら、「キミがちゃんと気づくか試そうかなと思ってね」とお茶目な答えが返ってきた)。

 私は昔から関心のあった環境問題に対し、自分にできることを通じて役に立ちたいと、数年前からワールドウォッチ研究所の通訳/翻訳のお手伝いをさせていただいている。研究所の隔月誌の日本語版への翻訳をお手伝いしたり、日本での講演の通訳をさせてもらったりする中で、また来日時の移動中の雑談などを通して、いろいろと大事なことを――環境問題について、リーダーシップについて、自己を律することについて、勉強・研究の仕方について――をレスターから教わっている。昨秋から私はワールドウォッチ研究所を日本で支援する環境文化創造研究所にも所属することになり、さらに絆が深まった。
 環境問題を解決する上で、日本が経済的にも技術的にも重要な位置を占めていることは言うまでもない。考え方や精神面でも西欧にないものを世界に伝え、導いていけると思う。自然を慈しみ、自然と共存する生活を昔の日本人は無理なく実践していた。最近よく聞かれる「ゼロエミッション」にしても、鎖国をしていた江戸時代にすでに他国とのやりとりなしで、自国内ですべてをまかないすべてを処理していた日本にとっては、新しい概念でも何でもない。通訳をしていてよく訳しけれずに困ることばの一つが「もったいない」だが、この「何も無駄にせず活かし切らないとお天道様に申し訳ない」という感覚も、日本(東洋)独特のものかもしれない。私もレスターはじめワールドウォッチ研究所の研究者が来日するたびに、アジアの視点や日本に昔からある考え方や実践を伝えようとしている。日本には胸を張って世界に発信できることがあると思うからだ。
 その一方で、やはり事実に関する情報や、個々の情報から全体像を見るための枠組は、まだまだ西欧から学ばなければならない。「情報化時代」といわれて久しいが、本当に重要な情報はきちんと届いているだろうか? ワールドウォッチ研究所のように、政府や企業からの寄付金をまったく受けず、それゆえ中立の立場で環境問題を研究できるNGOは、残念ながら日本にはまだ少ない。京都議定書を機に日本のNGOが確立してきたのは心強いが、それでも欧米の科学研究や情報を日本に伝えることの重要性は全く減っていないと思う。ワールドウォッチ研究所と日本の架け橋の一つになりたい、情報をできるだけ正確にそして有効な形で日本に伝えるお手伝いをしたい、というのが今の私のミッションである。
 これからも末長く実りある活動を一緒にさせていただけることを楽しみにしている。環境問題と格闘するレスターを少しでもサポートできればと思っている。そしていずれは、私もリングに上がりたい、と思っている。

 

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