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エダヒロ・ライブラリー一日一題

「物流が完全無人化する」と?

2017年03月05日

最近、「ヤマト運輸、インターネット通販の普及と人手不足でドライバーなどの労働環境が厳しくなっているため、荷物の取扱量の抑制へ」というニュースが報道されています。「たしかに大変そうだよなぁ、でも、クリックしたらすぐに届いてほしいんだよなあ」と思っている方もいらっしゃることでしょう。

そんな中、「物流、2030年をめどに完全無人化へ」という報道がありました。3月2日に明らかになった人工知能(AI)の産業化に向けた政府の工程表に明記されているそうで、「ネット通販の拡大で人手不足に悩む宅配便などの物流分野」で「鉄道やトラックなどを無人化させ、ドローンや物流施設を含めてつなぎ、最適なタイミングで配送する仕組みをつくる」とのこと。

人手不足も解消され、私たち消費者はクリック1つで何でもすぐに配達してもらえ、ハッピーハッピー?でしょうか?

「無人化」というのは、当たり前ですが、人がいらなくなる、とういことです(だから人手不足も解消されます)。国交省の資料によると、物流業界は、日本の全産業就業者数の約3%(169万人)を占めています。完全無人化といっても、関わる人はゼロにはならないでしょう。でも、無人化されるということは、この169万人の仕事のほとんどがなくなる、ということです。2030年をめどとのこと、それほど遠い将来ではありません。いまこの169万人のうちの1人として働いている人々が、きちんとじょうずに次の仕事にシフトしていくための手立ても「工程表」に含まれているのでしょうか?

「無人の鉄道や無人のトラックが走り、ドローンが配達してくれる」という、そう遠くない未来図は、売上やコストの観点からは望ましいのかもしれませんが、「人の声が聞こえてこない」未来図でもあります。

私も宅配業者さんによくお世話になっています。エリア担当の方とは顔見知りです。近くの道路で運転している彼と出会うと、私は手を挙げ、彼はにっこりと会釈を返してくれます。マンションの階段で出会うと、「あれー、めったに在宅していない方と会いましたねぇ。でも今日はお宅への荷物はありませんよ~」と軽口を叩き、笑い合います。

宅配業者さんは、「単に荷物を届ける」だけではなく、いわゆる「社会関係資本」、「地域の安全・安心」をしっかり支えてくれていて、私のささやかな幸福度アップにも貢献してくれているのです。ドローンとすれ違っても会釈は交わさないでしょう。優秀な人工知能だっても私のその日のようすにあわせて軽口を叩くことはしないでしょう。完全無人化って、これらを失うことでもあるのです。

また、宅配業者の配達ドライバーには独立・起業志向の高い人が多いと聞いたことがあります。それこそ歩く間も惜しんで走り回ってたくさんの荷物を配達し、開業資金をためて、起業するそうです。もし「完全無人化」で、こういった仕事が大きく減るとしたら(ここの人手不足が無人化の原動力ですから、きっとそうなるでしょう)、現在独立・起業したい人たちを支えている「開業資金をためる機会」が失われて、そうでなくても少ないと言われる日本の起業がますます減ってしまわないでしょうか。

などなど、「物流」に関わるさまざまな見えていない影響まで考えた上で、何は無人化技術に置き換えていくべきなのか、何はたとえ目の前の効率が悪くても置き換えてはいけないのか、置き換えていく際に生じる悪影響(流通業界での失業など)に対する手当てはどうするのか、なども考え合わせて、工程表をつくってほしい!と思っています。

 

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